理不尽な世界

水に色は無いけれど、その時僕の目には空が水色の様に見えた。
その先に広がる宇宙も、目を閉じているのに見えるその世界も何もかもが奇妙に思えた。そんな筈は無かったのに。瞼を閉じると広がる世界、瞼を開くと止まる世界。
止まっている物が動いた様に見えるのも、おかしくないのかもしれない。一瞬で現れると同時に消えるあの人も、その人もあんな人影もおかしくないのかもしれない。
「私が、おかしい」
何処までも広がる空みたいに、空は限られた檻だけど私の目は永遠の様に見てた。雨が降った事を「空の涙」と思う事が出来た。何処までも続いてるような線路の上、君と手を繋いで歩けば少しでも優しくなれた気がした。
「私が、おかしい」
何事も思い込んでしまう気病。悩めば悩む程自分を縛りつけてる。そしてそれに気付いていないから君がおかしい。優しい腕輪、閉めきった部屋、食い込む首輪。
「君が、おかしい」
言っている事と、している事と思っている事が合致しない。それはどうでもいい事ではない。黒い物が全部ゴキブリに見える。世界が煌いてように見える。汚いのに、何故か君がきらきらを発しているように見える。「見える。」青が黄色に見える。白が虹に見える。黒が闇に見える。光が毒に思える。
「僕が、おかしい」
無眠病。疲労を忘れて僕が神になる。誰を、何を崇めるのも自由だが、神はひとりでいい。それ程の力を持っているのが神なのだとしたら、神が沢山居れば世界は崩壊していたでしょう。地球が廻っている理由が解らない。太陽が燃えている理由が解らない。宇宙が伸びている理由が解らない。何処に、何が在るのかは解らないけれど、音を発せば居場所が解る。声を発せば気持ちが解る。耳を塞げば存在が解る。武器も防具も無い、私たちは裸。
「僕が、おかしい」
我慢は身体に良くないから、何故あなたが我慢をしているのかが僕にはわからない。それに対して不満を言われても僕は何もしないよ。「見ていればわかるんでしょう?」近くに居ないから見えない。不満を我慢しているのは、あなた。自分を解っていないのは、あなた。我慢は身体に良くないのに。
「僕が、おかしい」
無敵。敵が居ないのはつまらない。味方が居ないのは当たり前。群れをなすのは神経を休める為。脳は休まらない。身体が止まっても魂が有るならまた身体に入る。壊れてしまえば、もう治らない。「まだ治らないの?」もう治らない。命が消える訳じゃない、有機物は死滅する。希望も絶望も不幸も幸福も自我も精神も他人も自分も・・・無い。無。
「私が、おかしい」
すべての色はすべての色の中にある。と何処かの老人が言っていたけど、あぁ、解っているんだなと思った。解っていない奴は解らないから怒るんだ、解らないから馬鹿にするんだ、違うから笑うんだ、そしてすべての原因は自身にありそれを理由に悲観視する事は稀。でも否定は辛い。他は無心で消去。解っていない奴は解っていないのが限界だから死んで。




使い分ける
人=好き
奴=嫌い
物=壊す、潰す
壁=殴る
人間=消えちまえ




「私が、おかしい」
手が震えて、身体全体震えている事に気付いた。しかも酷くなってる。手が震えて指が軋む。ギシギシ云いながら伸ばす。ぶるぶる震えながら伸ばす。疲れているんだね、でも自覚は出来ない。だって君も消えてしまう。疲れているんだね、でも解らない。今は大丈夫なのだから。倒れたら、「頑張ったね」って言って下さい。「働け」と言われて働いたのに倒れたら、「迷惑」って言われたんだ。もうこの想像は現実みたいなもので、夢も現実で眠る意味も解らないし休まる必要はあったのかな、でも解らないんだ。でも安心しないと心も身体も酷使したら壊れるに決まっている。だれか僕を止めてよ。僕を止められるのは誰か。僕を止められるのは僕だけと決まった訳じゃない。倒れて、呼吸をしなくなるのかもしれない。肩が痛い頭が痛い腰が痛い眼が痛い足の裏が痛い脚が痛い皮膚が痒い。そして掻きむしる、血が出る、皮膚が剥がれる。



まるで錆びた機械の様
まるで剥れた塗装の様
まるで痛んだ精神の様



限度を知らなくてごめんなさい
限界が解らなくてごめんなさい
生まれてきて、ごめんなさい






「最初のさようならは、君に」