脳に銃弾

物心が付いた頃から頭の中に違和感。
何か光物のようで、激しい憎悪を感じる塊、異物感。

私の頭の中には 赤い銃弾。


その頃から心の中に銃を忍ばせる癖があった。
私の心が恋で解き放たれると、銃声が響く それも宇宙規模で。
それは私が私の中で世界のすべてだと言う事。

どの世界にも、どの環境にも逆らえない相手と、逆らってはいけない相手が居る。
それは貴方じゃない。それは者でもない。それは言葉じゃない何か。

私の心の中には 白い銃、少しこそばゆい。

或る日の放課後、くだらない授業が終わり教室からゴミ達がさっさと退散する。私はその様を、その一定のリズムで刻まれる足音と毎日同じ事の繰り返しに飽きている癖に本当は満更でも無いような笑い声と生活に微笑していた。それも教室の隅の机に突っ伏して。

「ああ くだらない。」

私は生徒達が去った後 黒板に落書きをする。
高校に来ている唯一の意義だろうか、なにものでもない純粋な楽しみ。描いては消し、描いては消し。あの子達には理解出来ないのだろうな、なんて思いながら私はひとりで淋しくて哀しい。

今日も足音が静まり教室に誰も居なくなったであろう状況になってから私は寝たふりをやめて顔を上げる。そして驚く、男子が一人黒板の横のゴミ箱の脇で鉛筆を削っていた。
しゃりしゃりと鉛筆が脱皮してゆく。カッターがギラリと光って私の視界に少しの希望を与えるかの様だ。私は眼が余り良くなかったので男子の顔は余り見えなかった。

その男子が顔を上げたまま自分を見ている私に気付いた。
カッターの歯が引っ込む。鉛筆がポケットに入って私の方を見る。

「あのさ、」
「なに?」

間髪入れずに返事をしてやった。
私の放課後の楽しみを邪魔されているような気分だ、そして不思議な感覚だ。彼は一体どこの生徒なんだろう。見たことが無い顔、と言っても周りに興味が無い私にとっては当然の事だろうか。

「俺、おまえのこと 好きなんだけど」

突然過ぎる。なにがなんでもいきなり過ぎる発言に私は眩暈を覚えた。だが驚いた、私が私に。
心に銃声が響いてしまったのだ、彼の言葉が引金で。
私は想定外の私に反する私の気持ちにどきりとした。鼓動が突如早まる、銃の引き金がキリリと軋む。危ない危ない危ない。
顔も知らないけど、顔は或る程度は整っていた。この先ホストをやっていても不思議じゃない顔立ち。なのに冴えない髪型に黒い縁の眼鏡。校則違反のピアスもなんのその。

(あたしの タイプじゃないか。)

なにもかもが予想外だった。この状況も、この子も私の心も銃声も。
脳から桃色の分泌液が出てそれに侵食されてしまう様だった。



私の中で恋の戦争が起きてる。