客足は遠のくばかり
酷い雨の日
もうそろそろ閉店するかと思った時
男が一人やってきた
「まだ、、、開いてるか?」
男は当然の様にずぶ濡れで、少し息を切らしていた
白いもやを吐く男、平然とした顔の私、暖かく店内を照らす暖炉
「えぇ、閉めようかと思っていたのですが」
「ありがとう。」
男の手には小指が無く、中指には古い文字のような物が描かれた指輪が鈍く光っていた
男は店内の比較的狭いテーブルの前で立止まった
「あの時のままだな・・・」
男の声は少し淋しげに響いた
「以前もここに・・・?」
私は一度だけの客も顔を忘れる事は無いのだが、この男の顔は何故か思い出せなかった
「あぁ・・・」
その男は席に重く腰を掛けると
無糖の珈琲に少し砂糖を入れて呑み、そそくさと帰っていった
男の過去、何故私が顔を思い出せないかを知りたかったのだが
客に干渉するのは御法度と思い、やめた。
雨は酷くなる一方。私も寒かったので赤切れだ手を庇いながら
暖炉の火をいつもの通り消し、店を閉めた
暖かい布団で眠りたい
その一心で豪雨の中を走った
明日は休業日だ
何をするか、何をするべきなのか それはまだ解らない