わたしを見て

「ねぇ、ここ。こんなに傷跡が残ってる。」
椿は会うと決まって新しく出来た生乾きの傷を見せ付けた。
僕からするとそれは 自慢しているように しか見えなかった。それがいちいち嫌になったし、
そんなことを勝手に思っているのは自分なんじゃないか、彼女は自分が可哀想だと思っている様だったし、
自分を可哀想だと思って欲しい様にも見えたから。

「でもね、ちっとも痛くないの。」

そう言う時、彼女は、こんなに深く切ってるのに痛くないわたしってすごい、我慢した、わたしってえらい
とでも言っているような副音声も喋っている様だった。いや、本当はそう言いたかったに違いない。
と僕は思っている。
そんな彼女の隣に居る僕はもう、椿が何をしでかすか解らない故に毎日不安になるようになることは
なくなっていたし、彼女は死にたいのではなく、死ねないからそういう傷を作っているのだと理解していた。

そんな彼女が消えたのは去年の暮れの頃で。
僕は今、彼女をまだ探しているが、もしかすると彼女から僕が消えたのであって彼女が僕を今、何処かで
探しているんじゃないか、と錯覚するように、そう勘違いするように、思うようになって来ていた。

最近嫌な夢を見る。

場面は全体的に黒で、テレビ画面のようなものの中で彼女が傷だらけになっていく。
画面が切り替わる度に痛々しく、深く、血が辺りを染めている。
そのテレビ画面のようなものの端々に、彼女の本当に訴えたかったと思われる言葉が映されている。

「どうして?」

「私を見て?」

「ほら、」

「こんなに。」

「どうして?」

「私は不幸。」

「可哀想。」

「おかあさん。」




おかあさん?

その夢を見る度に疑問が残った。