おかあさん、引き金をひかないで

いやだ、おかあさん

ぼく、まだしにたくない

しにたくないよ

おかあさん、やめて

引き金を引いちゃやだよ



ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ





























あれ と これ を分けようとするから おかしくなる

正義と悪をどちらかに傾けようとするからおかしくなる

きみ と ぼく

きみ と ぼく のあいだに 線 なんてあるのかな

ほら、ない

きみ が いる

ぼく が いる

ほら、おかしくなっている

わたしを見て

「ねぇ、ここ。こんなに傷跡が残ってる。」
椿は会うと決まって新しく出来た生乾きの傷を見せ付けた。
僕からするとそれは 自慢しているように しか見えなかった。それがいちいち嫌になったし、
そんなことを勝手に思っているのは自分なんじゃないか、彼女は自分が可哀想だと思っている様だったし、
自分を可哀想だと思って欲しい様にも見えたから。

「でもね、ちっとも痛くないの。」

そう言う時、彼女は、こんなに深く切ってるのに痛くないわたしってすごい、我慢した、わたしってえらい
とでも言っているような副音声も喋っている様だった。いや、本当はそう言いたかったに違いない。
と僕は思っている。
そんな彼女の隣に居る僕はもう、椿が何をしでかすか解らない故に毎日不安になるようになることは
なくなっていたし、彼女は死にたいのではなく、死ねないからそういう傷を作っているのだと理解していた。

そんな彼女が消えたのは去年の暮れの頃で。
僕は今、彼女をまだ探しているが、もしかすると彼女から僕が消えたのであって彼女が僕を今、何処かで
探しているんじゃないか、と錯覚するように、そう勘違いするように、思うようになって来ていた。

最近嫌な夢を見る。

場面は全体的に黒で、テレビ画面のようなものの中で彼女が傷だらけになっていく。
画面が切り替わる度に痛々しく、深く、血が辺りを染めている。
そのテレビ画面のようなものの端々に、彼女の本当に訴えたかったと思われる言葉が映されている。

「どうして?」

「私を見て?」

「ほら、」

「こんなに。」

「どうして?」

「私は不幸。」

「可哀想。」

「おかあさん。」




おかあさん?

その夢を見る度に疑問が残った。

臆病者

あたしが部屋に入ると臆病者の姿はなかった。
風呂場に行くとそれは干上がった湯船の中で寝息を立てていた。
あたしがそれを座りながら見ていると臆病者があたしに気付いた。
あたしと、気付いた臆病者との目が合う。




おーはーよーごーざいまーす。」 と言いながら蛇口を捻った。




冷たい水が臆病者に容赦無しに掛かる。
臆病者は声になっていない声を出して、飛び跳ねた。
あたしは蛇口を反対側にまた捻る。




「おはよ。」 大して面白くないといった風に言う。




臆病者はあたしを見て眼を反らしながら溜め息を吐く、

そして  「脱いで。」  と とびきり可愛い笑顔で言う。



答えを受け付けない強制。




そう言うと臆病者は渋々とすぐ全裸になる。
水で重くなった服がビジャッと鳴いて湯船に落ちる。
直ぐ様あたしは臆病者の性器を口に含んだ。
食べ物にもない有り得ない感触のそれは外見もまた気味が悪いものだが
それであたしは此処に居て、臆病者も今此処に居られる。素晴らしいことだ。
うん、行けると思いながらまたあたしは臆病者を育て上げる。
口の中で段々と気色が悪い程に変化する臆病者の性器は可愛い。臆病者も可愛い。
だが臆病者の変なところは何の反応もしないところだ。
今まで何回も何百回と何千回と繰り返してきたあたしにとって彼はは本当の変態だった。


男の息や、顔の気持ち悪さや喘ぎ声を聞くと虫唾が走るんだ。


でも、臆病者は顔も声も可愛い。
空間に存在していることが可愛い。バスタブで眠る様な所が可愛い。


あたしが臆病者の性器を弄んでいると急に口の中に違和感を感じた。




臆病者は何の声もあげず、躊躇すらなく口に出す。




顔は悲しそうな、今に泣き叫びそうな顔をしていた。

「ごめんね。」 と あたしは彼を飲む。

「いや、違うんだ。」 臆病者は漏らす。

何が違うのかな、いつも分からないけどあたしには関係がない。
「入っていい?」 あたしは服を脱ぎながら言う、彼に選択の余地はない。
「あの、」 と臆病者が言う間に裸になって上に乗る。
ゴツッと臆病者が湯船に頭を打ち付けようが水びたしの服がバシャバシャ鳴こうがあたしには関係がない。
あたしが動くと臆病者は苦しそうな顔をする。
あたしは彼のそんな顔を気に入っている。あたしの代わりに息を漏らし、
崩れ、逝ってしまうのが臆病者だ。
段々と彼の性器があたしを突き破る。あたしを揺り動かす。 濡れる。


あたしが動きを速めると臆病者はとうとう泣き出してしまった。


あたしが溜め息を吐く。彼が泣く。   「いい子ね。」

そう言って撫でてあげるんだ。

臆病者の性器をあたしは支配する。彼の生活をあたしは支配する。





あたしはそれに金を払っている。

クロノトリガー/光田康典

そこまで、心が浸るくらいに すきにはなれない

「すき」と口にすることを 躊躇ってしまうのは

どうしてなんだろう



本当に そう思っているなら 口に出せるのにな





誰かとずっと 一緒なんて 寒気がする

僕は一人の方が 一人で居る方が いいんだ   きっと そうさー